音楽ミニ知識
バーのスラント
スチールギターの演奏における「バーのスラント」とは、トーンバー(スライドバー)を弦に対して斜めに傾けて使用するテクニックのことです。
通常、スチールギターのバーはフレットラインと平行になるように、弦に対して直角に当てて音を鳴らしますが、このスラント奏法をマスターすることで、通常のポジションでは得られない独特の表現や音程の組み合わせが可能になります。
1. なぜスラントをするのか?
スラント奏法の主な目的は以下の2つです。
和音(コード)の表現の多様化: スチールギターは、ペダルやレバーがない場合、一つのポジション(フレット)で鳴らせる和音(コード)が限定されます。しかし、バーを斜めに傾けることで、弦ごとにフレットの位置をずらすことができ、多様なコードフォームや、通常のポジションでは出せないハーモニーを奏でることができます。特に、複雑なコード進行や、特定のジャンル(カントリー、ハワイアンなど)の楽曲を演奏する際に不可欠なテクニックです。
音の滑らかな接続: フレーズやメロディーを弾く際に、一つのポジションから次のポジションへ、音を途切れさせずに滑らかにつなげるために使われることがあります。バーを移動させながら特定の弦を斜めに押さえることで、複数の音を流れるように繋げ、より表情豊かな演奏が可能になります。
2. スラントの具体的な使い方と練習のポイント
スラントは、主に以下の2つのパターンで用いられます。
a) 前スラント(フォワード・スラント)
使い方: バーの先端(演奏者から見て指板側)が、根本よりもブリッジ側に傾くようにバーを斜めに当てます。
効果: これにより、バーの先端に近い弦(高音弦側)が、根本に近い弦(低音弦側)よりも高いフレットで押さえられ、異なる音程を同時に鳴らすことができます。
b) 後スラント(バック・スラント)
使い方: バーの根本(演奏者から見て根本側)が、先端よりもブリッジ側に傾くようにバーを斜めに当てます。
効果: 前スラントとは逆に、低音弦側が高いフレットになり、特定の和音を形成します。
練習のポイント
耳で音程を確認する: スラントの角度は、フレットラインを見て判断するのではなく、実際に鳴らした音を耳で聴いて、正しい音程になっているかを確認しながら調整します。
バーを正確に止める: 連続したスラントの動きをする際は、バーが流れてしまわないよう、1つ1つのポジションでピタッと止める意識が重要です。曖昧な動きは、音がきれいに鳴らない原因になります。
繊細なコントロール: バーは勢いで動かすのではなく、指先で繊細にコントロールすることが求められます。特に、バーのお尻を持ち上げる際は、最低限の高さにすることで左手への負担を減らし、スムーズな演奏につなげます。
スラント奏法をマスターすることで、スチールギターの表現力は大きく広がり、より複雑で魅力的な演奏が可能になります。はじめは難しいかもしれませんが、特定のコードやフレーズに絞って少しずつ練習を重ねることが上達への近道です。